100円LEDライトを昆虫観察用ライトに改造してみた

100円ショップで売っているLEDライトを昆虫観察用に改造しました。

昆虫観察用ライトとは

ここでいう昆虫観察用ライトとは昆虫にとって見えづらい波長の光を出すライトのことで、勝手にそう名付けました。昆虫の多くは長波長側の光に対する視覚感度が低いとされています(1)。下の図はミツバチの細胞レベルでの光に対する感受性を示したグラフ(2)です。波長が500nmを超えると緑色の光受容細胞が反応するのみとなり、600nmに近づいてくるとその緑色の光受容細胞の感受性も急激に低下していることがわかります。昆虫に見えづらい光を使えば光による昆虫の行動変化を抑えて観察することが出来るはず、ということで100円ショップで売っているLEDライトの白色LEDを長波長の物に交換する改造を試みました。(昆虫採集の時には赤ライトをと言うお話も同じ理由からだと思われます。)
Spectral sensitivity of photoreceptor cells in the honey bee Apis mellifera.(Adriana D. Briscoe and Lars Chittka, 2001)

部品と仕様

準備した部品は下記の通りです。
 1. 9LED ランチャーライト
 2. USBケーブル
 3. 5mmオレンジLED
 4. ダイオード

ライト本体には100円ショップで見かけた9LEDランチャーライトを用意しましたが、LEDが固定できさえすればよいので使用する元のライトは何でもかまいません。また、ここで作るLEDライトは屋内でしか使わないことからUSB給電とすることにしました。ケーブルは邪魔ですが電池の消耗を気にする必要はなくなります。ケーブルとして用意したのはスマートフォン用充電ケーブルです。
9LED ランチャーライトとUSB充電ケーブル

交換用LEDは昆虫には見えにくく、ヒトにとっては出来るだけ見やすいものということでオレンジ色としました。ただし特に光に敏感な昆虫の場合はさらに波長の長い赤色(620nm超)にした方がよいかもしれません。
オレンジLEDの主な仕様は以下の通りです。
 順電圧 1.8-2.2V (20mA) 実測2.0V
 波長 605-610nm
 最大電流 30mA
 半値角 20-25°
 光度 5000-6000mcd (20mA)
オレンジLED

ここで一つ考えなければならないことがあります。それは流す電流量のことです。今回用意したランチャーライトのLEDは白色ですからその順電圧は3V以上あると考えられます。供給される電圧は電池3本で4.5V。これを順電圧2VのLEDに交換してUSB 5Vで使うわけですから電流量を抑える対策が必要です。このランチャーライトには15Ωのチップ抵抗がついていましたが、このまま使うと計算上は200mA、LED 1個あたり22mAの電流が流れることになります。
交換用に用意したオレンジLEDは最大電流30mAの物なので問題はありません。問題はチップ抵抗の方です。電流が200mA流れると消費電力は0.6W。定格を超えているのは間違いありません。ではもともとの白色LEDの状態ではどのくらいの電流が流れるのか。電池を新品として電圧4.5V、白色LEDの順電圧を低めの3.0Vとして計算すると電流量は100mA程度、消費電力は0.15Wとなります。これでもたぶんチップ抵抗の定格を少し超えているだろうと思いますが、このあたりを上限の目安とすることにします。
電流量の調整には整流用ダイオード(東芝 0R8DU41、下の写真)を使うことにしました。カタログ上では順電圧は150mAで約1.1V、実測では20mAで0.6Vでした。このダイオードは電圧を下げるためだけに使うものなので、これでないといけないというわけではありません。1.1Vの電圧降下と仮定して計算すると電流量は約127mA、LED 1個あたり14mAとやや多めですが、後で調整することにしてこのまま進めます。
(チップ抵抗を取り外すか短絡させて別の抵抗(半固定抵抗など)を入れるほうが間違いなく話は簡単です。)
東芝 0R8DU41

作業工程

まず給電用にUSBケーブルの加工をします。充電ケーブルのUSB Aコネクタはそのまま使うので、マイクロUSBコネクタの方を切り落とします。続いて黒い被覆を少し切り、中の線を出します。線が4本出ていますが、このケーブルでは赤がプラス(+5V)、黒がマイナス(GND)でした。
加工前のUSBケーブル 加工後のUSBケーブル

ランチャーライトを分解します。ランチャーライトはライト部、本体部、電池ケースの三つの部分から出来ています。
9LEDランチャーライト

LEDを交換するためライト部を分解します。ライト部は六つの部品で出来ています。
基板にはLEDのほか、ばねとチップ抵抗(15Ω)がついています。チップ抵抗はそのまま利用するので取り外すのはLEDとばねとなります。
ライト部内側 ライト部部品 分解した基板 改造前の基板

はんだを(できれば)きれいに取ってショートしていないことを確認したら、新しいLEDとばねを元通りに取り付けます。
取り付け後、ショートしていないことを確認して試験点灯させてみました。電流は100mAほど流れています。事前に予想した127mAより少なく、電流量の上限の目安に考えていた値に近くなっています。明るさも問題ないようですし、壊れればなおせばよいのでこのまま使うことにしました。
改造後の基板 点灯試験

次にランチャーライト本体部の加工をします。まず本体にケーブルを通す穴を開けます。
本体部の穴

開けた穴にケーブルを通した後、ケーブルを電池ケースに接続します。本体のスイッチが利用できるようにするためです。
マイナス側は電池ケースに直接、プラス側は整流用ダイオード経由で電池ケースにつなぎました。
電池ケースのマイナス側 電池ケースのプラス側

接続が終わったら電池ケースを本体に収め、ライト部をつけて昆虫観察用ライトの完成です。
完成した昆虫観察用ライト 昆虫観察用ライト点灯

使用感など

実際に使ってみると赤よりも見やすいように感じます。ただしばらくこのライトを使って見ていると、ほかのところに目をやった時に色がおかしく見えます。ほぼ単色光なので観察対象の色の区別は出来ません。それと赤系統の物、たとえば赤い液の温度計などは見づらいです。
下の写真は赤色LED(たぶん620nmあたりの品)との色の違いです。
赤とオレンジの違い

電流量を少なくして660nm以上の赤色LEDを使えば天体観測時に使える赤ライトも作れるかと思います。

参考文献

(1) 高木廣、2010、虫と光兵庫県立農林水産技術総合センターセンター雑感
(2) Adriana D. Briscoe and Lars Chittka, 2001, The evolution of color vision in insects, Annual Review of Entomology 46, 471-510


Last Modified: 27 July 2019